活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

和字・第22回 検査

…… 基礎的な修練を積んだタイプフェイスデザイナーでも、視点を変えることにより不具合を発見できる。最初に方向性を確立して進めたとしても、何度も試行錯誤して積み上げていき、全部完成した時にやっとその書体がわかる。 活字書体設計というのは虚像であ…

和字・第21回 カーニング

…… 手動写真植字機では、喰い込み詰め組用仮名文字盤が製作されていた。喰い込み詰め組用という名称であるが、実質的にはカーニングである。 喰い込み詰め組用仮名文字盤として、隣接2文字を喰い込ませた状態(ペアカーニング)の2全角で収容し、一度に2…

和字・第20回 プロポーショナル

…… 手動写真植字機では詰め組用仮名文字盤が製作されていた。詰め組用という名称であるが、実質的にはプロポーショナルである。つまり一字ごとに字幅(セットウィドゥス)を設定している。 詰め組用仮名には、自動字巾検出送り機能を持ったPAVO–J以降のPAVO…

和字・第19回 くくり符号

…… くくり符号は、起こし(始め)と受け(閉じ)の組み合わせで用いられる。和字書体だけで日本語の文章を表記することもあるので、和字書体のフォントに含まれると考えている。書体ごとにデザインするのであるが、ひらがな・カタカナと同じ書き方にするとい…

和字・第18回 くぎり符号・つなぎ符号

…… 1 くぎり符号(縦組み用、横組み用) 句点「。」(縦組み用、横組み用) 形状 正円を基本とする。 ※書体によっては、ひらがなと同一の筆記具で書かれたように設計する場合もある。 位置 縦組み用は全角のボディの右上に、横組み用は全角ボディの左下に置…

和字・第17回 くりかえし符号・準文字

1 ひらがなに準じて制作するくりかえし符号・準文字 繰り返し符号(ひらがな用) ひらがなに合わせて制作する。 「ゝ」「ゞ」(ひらがな返し) ひらがな「う」「え」「ふ」の第一筆を参考に制作する。濁音符はひらがなと共通である。 「〳」「〴」「〵」(…

和字・第16回 促音符・拗音符・長音符

促音符 促音(「あっ」「カッ」など)であることを示すために、清音のかなに続いて小書きにする「っ」「ッ」を指す。 拗音符 拗音(「きゃ」「ミュ」など)であることを示すために、清音のかなに続いて小書きにする「ゃ」「ゅ」「ょ」「ゎ」「ャ」「ュ」「ョ…

和字・第15回 濁音符と半濁音符

濁音符(濁点) 濁音であることを示すために、清音のかなの右肩に打つふたつの点。 半濁音符(半濁点) 半濁音であることを示すために、清音のかなの右肩に打つ小さな丸。 なお、本記事においては濁音から濁音符を除いた(清音と同一の)部分を親字というこ…

和字・第14回 カタカナのナラベカタ

大きさ(ボディに対する字面の占有率) カタカナは、もともとは漢文を日本語に開く(訓読する)ための符号だった。漢字のかたわらに添える文字である。カタカナはひらがなよりも単純なために、字面率を同じにすると、間が抜けてしまい落ち着かない。だから、…

和字・第13回 ひらがなのならべかた

中学校の書写の教科書では、「漢字かな交じり文」のなかに「文字の大きさと配列」という項目がある。活字書体の場合にはボディの制約があるので、書写やレタリングのように自由ではない。ボディのなかで、どのくらいの大きさで、どの位置に入れるかというこ…

和字・第12回 カタカナのマトメカタ2

1 判別性の問題 カタカナは筆画が単純なので、似たような文字が多い。第一に注意すべきことは、誤読されないようにすることである。 ①「ソ」と「ン」、あるいは「リ」の場合 「ソ」と「ン」は、とくに和字ゴシック体においては「フリオロシ」と「フリアゲ」…

和字・第11回 ひらがなのまとめかた2

1 黒さ・太さの調整――「ね」「れ」「わ」の場合 ひらがなの設計でいちばん悩むのは「ね」「れ」「わ」の左側の、「たて・はね」と、「あたり」の繰り返しの交差するところである。その部分が黒く見えがちなのでなんとか回避しなければならない。書写では問…

和字・第10回 カタカナのマトメカタ

多田夏生氏は『基本かなの書き方』(多田夏生著、永岡書店、2002年)ではカタカナの外形法については記されていない。ひらがなだけでなく、カタカナにも同じことが言えると考え、少し強引ではあるが、六つの種類に分類してみた。 「円形」 オカネホヤヰ 「三…

和字・第9回 ひらがなのまとめかた

欧字書体では、例えば「O」に比べて「E」の字幅が狭くなるということがあるし、「o」に比べて「p」のディセンダーが短くなったり長くなったりする。和字書体もそれと同じようなことが言える。 『基本かなの書き方』(多田夏生著、永岡書店、2002年)では…

和字・第8回 カタカナはフリオロシで決まる

カタカナはひらがなと違って、次の文字につながることを前提としていない。漢字と同じように一字一字が独立している。ひらがなと音は同じであるが、形象としてはまったく異なる文字体系である。 『ひらがなの美学』(石川九楊著、新潮社、2007年)という本で…

和字・第7回 カタカナのフデヅカイ

中学校の書写では、ひらがなは大きく扱われているが、カタカナはあまり出てこない。文字としては習うのだが、書写の対象としてはほとんど無視されている。ひらがなのように一字一字の詳しい解説は載っていない。一般の書道の教本でもカタカナが入っているの…

和字・第6回 ふでづかいのくみあわせ

ひらがなは、部品を組み立てて成り立っているのではない。便宜上、第1筆、第2筆というような言い方をする場合はあるが、正確に分けられるものではない。たとえ脈絡でつながっていなくても、書き始めから書き終えるまで、すべての線が一筆書きのように気脈…

和字・第5回 ひらがなのふでづかい

欧字書体では「ステム」や「ボウル」などエレメントの名称の図がよく載っている。それでは和字書体ではどうなるのだろうか。活字書体として総合的に記されていることは少ないようだ。 そこで書写の教科書で出てきた「はらい」「とめ」「はね」「むすび」など…

欧字・第4回 フォント

欣喜堂で欧字書体として制作しているグリフはつぎの通りである。 (欧字書体Vrijheidはまだできていないので、サンプルはK.E.Libraにしています) Proportional-pitch font 文章や単語にもちいるために、キャラクター個々の字幅を設定した欧字を制作している…

漢字・第4回 字庫(フォント)

フォントは中国語で「字庫」という。漢字書体に関する言葉はできるだけ漢字を使いたいので、本記事では「字庫」という言葉を用いることにする。活字書体は、活字という工業製品の一部分である。漢字書体の字庫(フォント)に納められる字種は、好き勝手に決…

和字・第4回 フォント(和字書体) 

欣喜堂で制作している和字書体のフォントは、ひらがな、カタカナ、および表記記号(約物・括弧など)が含まれている。 ひらがな ①ひらがな48字ひらがな48字(清音・撥音)を制作する。 ②音声符号付ひらがな濁音符(゛)と半濁音符(゜)を、かたちと大きさを…

欧字・第3回 スペシフケーション

1 使用目的 日本国内において、例えば博物館や美術館、観光地の案内リーフレットでは、英語版のほかに、フランス語版、ドイツ語版、イタリア語版、スペイン語版、ポルトガル語版が作られているのを見かける。それらは欧字書体で組まれている。 欧字書体は欧…

漢字・第3回 要件

1980年代には、TQC(Total Quality Control)活動が推進されるようになった。QCというのは品質管理のことで、QCサークル活動が活発に行われた。書体設計部門も例外ではなかった。その第一歩として漢字書体の仕様書が作成されるようになった。 和字書体、欧字…

和字・第3回 みちすじ

1 使用する目的 活字書体はリリースされたと同時に制作者の手を離れる。その使用は購入した人に委ねられ、いかなる媒体で、いかなる使われ方をしようが、制作者はそれを見守るしかできない。そうだとしても、ただ漠然と制作しているわけではない。使用する…

欧字・第2回 コンセプトとインテンション

ネーミング(Vrijheid)欧字書体のネーミング(命名)は難しい。『欧文書体 その背景と使い方』(小林章著、美術出版社、2005年)には、「書体に名前をつけるのは難しい」というコラムがまとめられている。小林章さんデザインのFF Cliffordは、発売が決まっ…

漢字・第2回 概念・意図

概念 日本語の文章は漢字書体だけで組まれることは少ないが、漢文崩し(漢文を訓読したような文体で書かれた文章)のような漢字の割合の多い文章では、和字書体よりも漢字書体の形象(イメージ)が強く反映する。 本文以外で、例えば住所や氏名の表記、看板…

和字・第2回 よりどころとねらい

活字書体とは 「書体」とは何か。『広辞苑』(岩波書店)には次のように記されている。 しょたい【書体】 ①字体を基礎に一貫して形成された、文字を表現する様式・特徴・傾向。漢字の楷書・行書・草書、活字で和文の明朝体・ゴシック体・アンチック体など、…

フレイヘイド(Vrijheid)の風が吹く

できれば従属欧文ということばは使いたくない。日本語フォントは、和字書体・漢字書体・欧字書体が対等な関係だと考えて設計しているからだ。だから、たとえ日本語フォントの中の欧字書体であっても、「フレイヘイド(Vrijheid)」のように固有の書体名をつ…

欧字・第1回 復刻、翻刻、そして新刻(欧字書体)

…… 復刻(活字→活字) 筆者が仕事として取り組んだ欧字書体も復刻から始まった。写植書体の「ヘルベチカ」ファミリー、「オプチマ」ファミリー、「ユニバース」ファミリーである。いずれもサンセリフ系の書体で、「ヘルベチカ」と「ユニバース」はグロテスク…

セリフとサンセリフとスラブと

…… 『図解で知る 欧文フォント100』から 『図解で知る 欧文フォント100』(スティーブン・コールズ著、akira1975監修、田代眞理翻訳、ビー・エヌ・エヌ新社、2019年11月)は、定番の欧字書体から100書体を厳選し、16種類のスタイル別に分類し、書体の特徴を…