活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

「陳起」の十字二法

臨安府棚北大街陳宅書籍鋪刊行の『南宋羣賢小集』(五八種九五巻)をベースにした「陳起」の字様をひもといていきたい。「陳起」は、工芸の文字として様式化がすすんでいるが、書写における楷書体の筆法を色濃く継承している。

横画は細く、豎画は太い。ファミリー化にあたっては、横画は細いままで、豎画のみ太くすることになるだろう。

f:id:typeKIDS_diary:20141102103836j:plain

 

1 横画

起筆は、軽いが鋭い。毛筆由来の入り方が、彫刻されることによって単純化されている。

送筆はシンプルだが、少し弓なりになっている。起筆からなめらかに送られ、9度程度の右上がりになっている。これは右手で持たれた筆記具で書かれた必然であるが、この角度によって横へのつながりは断たれ、縦へのつながりが強められた。弾力はそれほど強くはないが、ポキッと折れるような脆性はない。

収筆も軽い。ほんの少しだけ力をためる程度で、送筆からの変化もなめらかに行われる。明朝体になると、これがコブ状に変化していくことになるが、宋朝体の「陳起」ではまだ小さい。

少し弓なりに、少し押さえるという毛筆書写における自然な形象を、彫刻する過程において単純化することによって際立たせているようである。

 

2 豎画

起筆は、横画に比べると少し強い。毛筆由来の入り方であるが、少し力を入れないと縦に引き下ろすことができない。豎画が太いのも同じ理由からだろう。

起筆から垂直に引き下ろされる。毛筆書写では、右手で持たれた筆記具で書かれるために豎画を直線にするのは意外と難しい。少し弓なりになる。しなやかで、ポキッと折れるような脆性はない。

収筆は筆を逆に戻してしっかりと留める。送筆からの変化はなめらかだが、横画に比べればしっかりと力をためている。明朝体では軽く留めているが、宋朝体の「陳起」ではしっかりと押さえている。

豎画においては垂直を保っている分、書写でも若干無理をしているようでもある。だが、少し弓なりにし、強く押さえるということで、全体のバランスをとっているようである。