活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

「金陵」の十字二法

明末の南京国子監刊本である『南斉書』(1588年−1589年)をベースにした「金陵」の字様をみていきたい。

「金陵」もまた横画が細く、豎画が太い。ファミリー化にあたっては、横画は細いままで、豎画のみ太くすることになる。

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1 横画

明代にいたって、横画の傾斜角は3度程度になる。ベースにした刊本は右上がり3度のガイドラインを敷いて彫刻してはいないので、正確に統一されているのではない。ただ宋代の刊本が9度または6度だったので、水平に近づいていることは確かだ。

起筆は鋭角に彫り込まれている。多少書写の名残はあるが、うまく単純化されている。上部のアウトラインはなだらかに、下部もなだらかに送筆につながっている。

送筆は「陳起」よりさらにシンプルである。起筆からのつながりをのぞけば、基本的には直線である。上側のアウトラインに沿うように、下側のアウトラインもほぼ平行になっている。ただし、定規を当てて引いた線ではないので、微妙なゆらぎが感じられる。

「陳起」との最大の違いは収筆にコブ状の押さえがあることである。複数の作業者が統一しやすいように、コブ状にしたのだろうか。起筆の下部と同じように、下方にもほんの少し下にふくらみをつけている。これにより安定感を醸し出しているようだ

起筆・送筆・収筆という毛筆書写における自然な運筆を、彫刻しやすいように単純にすることによって、宋朝体から明朝体へと変化したのである。

 

2 豎画

起筆の左部は、見事なまでにバッサリと削ぎ落とされている。さすがに右部まで削ぎ落とすことはできなかったのだろう、「陳起」と同じままである。むしろ少し膨らんでいるぐらいだ。横画の収筆をコブ状にしたので、この程度の重さが必要だったに違いない。

送筆は、左右のアウトラインがほぼ平行になっている。左のアウトラインは、本来は直線のはずだが少し弓なりになっているように見える。送筆は直線なのだが、起筆からゆるやかに力が抜けて、すぐに収筆に向けて力が入っているのであろう。そのために少し弓なりになっているのである。左側は単純化されたきれいなカーブに見える。

収筆は「龍爪」と同じように一度力をためてから引き抜いている。「陳起」のようにしっかりと押さえるスタイルでないのは、やはり彫刻の手間を省くということだったのだろうか。

宋朝体の「陳起」にくらべて、明朝体の「金陵」はきわめて巧妙に単純化されている。横画の収筆だけでなく、豎画の起筆や収筆にもいえることである。刊本字様の大改革だと思う。