活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

「蛍雪」の十字二法

『欽定全唐文』(1814年、揚州詩局)をベースにした「蛍雪」の字様をみていきたい。「蛍雪」は工芸の文字として整理がすすんでおり、一般的に楷書体と一括される書体のなかでも、「宋朝体」「明朝体」と同格に、印刷書体としての「清朝体」として分類すべきだと考えている。

「蛍雪」も、これまで見てきた楷書系印刷書体と同様に、横画は細く、豎画は太い。ファミリー化にあたっては、横画は細いままで、豎画のみ太くすることになるだろう。

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 1 横画

「蛍雪」は、6度程度の右上がりである。これは宋朝体の「龍爪」、もうひとつの清朝体「熱河」と同じである。唐代の典型的な楷書体である「開成」や清代の精刻本である「林佶」、宋朝体の「陳起」は約9度の右上がりであるので、それらに比べればゆるやかである。約3度の右上がりになっている明朝体「金陵」にくらべると急である。

起筆は毛筆由来の入り方で、ゆるやかである。

送筆は、上側のアウトラインからすでにカーブを描いており、下側のアウトラインもそれに沿うように大きく湾曲している。元朝体の「志安」と同じで、全体的に柔らかい印象を受ける。ただし、右手で持たれた筆記具で書かれることによって生じる右上がりを書写の楷書体よりおさえることにより、書写から工芸の文字へという切り替えを演出しているようだ。

収筆も軽い。ほんの少しだけ力をためる程度だが、宋朝体の「陳起」とはことなり、丸く柔らかくなっている。

「蛍雪」は書写の楷書体から一歩抜け出しており、均一に統一された表情がある。活字書体としての機能をもっている。

 

2 豎画

起筆は、横画と同じように毛筆由来の入り方である。あまり力を入れないで軽く入り縦に引き下ろしている。それでも豎画のほうが少し太くなっている。

送筆の左側のアウトラインはほぼ直線で、垂直を保っている。右側のアウトラインもごくわずかに抑揚をつけている程度である。今までのどの楷書系書体よりも変化の少ないシンプルな豎画である。

収筆は少しだけ力をためてからゆっくりと下方に引き抜いている。宋朝体の「陳起」では筆を逆に戻してしっかりと留めているが、「蛍雪」では、そのまま引き抜く筆法になっている。

豎画も、宋朝体の硬質なイメージと対照的に、この清朝体ではやわらかいイメージになっている。「軟字」と言われるゆえんである。