活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

「方広」の十字二法

『大方廣佛華巖経』(990年—994年、龍興寺)をベースにした「方広」の字様をみていきたい。「方広」は仏教経典・儒教経典で用いられた荘厳で権威的なイメージのある肉太の楷書体である。

仏教経典の印刷は唐代から行われており、時代と地域を越えて、経典の形態、字様、版式に大きな変化はみられなかった。豎画も太いが横画も太い。ファミリーとして細い書体をつくるとすれば、横画、豎画ともに同じ太さになるだろう。

一般的には太楷書体と見られるかもしれないが、「宋朝体」「明朝体」、あるいは「清朝体」など、これまで見てきた楷書系印刷書体とは異なる別系統の書体として、「経典体」と呼ぶことにする。

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 1 横画

 

豎画だけではなく、横画もやや肉太である。筆画のコントラストは大きくない。横画の起筆部はシャープで強い。肉太だが、肥満体というより筋肉質というようなイメージがある。

「方広」は6度程度の右上がりになっている。宋朝体の「龍爪」、清朝体の「蛍雪」や「熱河」と同じである。上側のアウトラインからすでにカーブを描いており、下側のアウトラインもそれに沿うように大きくカーブし勢いを出している。彫刻によるアウトラインが調整されているので全体的に硬質な印象を受ける。書写から工芸の文字へという転換もほんの少し感じられる。

収筆も重量感がある。どっしりと力をためており、清朝体の「蛍雪」とはことなり、グイッと力強くなっている。

「方広」の横画は、とくに起筆と収筆が強調され、太いだけではなく強さも兼ね備えている。

 

2 豎画

豎画も荘厳なイメージがあり、どっしりしている。横画の起筆に負けないぐらい力をこめて入っている。

送筆の左側のアウトラインはほぼ直線で、垂直を保っている。横画は送筆で力を抜いて勢いをだしているが、豎画はそのまま縦に力強く引き下ろしている。右側のアウトラインは少し抑揚をつけて、勢いがでるようにした。

収筆はゆっくりと下方に引き抜いている。起筆に対応させて、荘厳なイメージを保つようにした。

「方広」の豎画も、とくに起筆が強調された強靭な筆法である。