「銘石」の十字二法
王興之墓誌(341年)と宋和之墓誌(348年)をベースにした「銘石」の字様をみていきたい。この墓誌銘の字様は、これまで見てきた楷書系書体とはことなり、東漢の隷書体から北魏の真書体への中間だといわれている。これを、隷書体にちかいものとして捉えることにした。
「銘石」は、横画、豎画が同じぐらいの太さである。直接関係しないが、現代の黒体(ゴシック体)のようなイメージをもっている。
1 横画
横画は水平である。これは現代の黒体(ゴシック体)と同じである。
起筆は、筆の穂先が外にあらわれない描き方である。穂先のひらたい筆を用いて書いたものが彫刻によって単純になったのだろう。直線化して角が立っている。
送筆は、筆の穂先の中心が中央をとおるように運んでいる。上側のアウトラインも下側のアウトラインも、それに沿うように描き出されている。中央は直線だが、上側も下側も反っている。
収筆に波磔はない。ほんの少しだけ力をためて留めている。原資料では筆の離しかたがいろいろあるようだが、「銘石」では隷書体を意識して、そのまま上から筆をはなす方法に統一した。
「銘石」は、書道史的な解釈は別として、現代の黒体(ゴシック体)にきわめて近い。活字書体としての機能をもっていると思っている。
2 豎画
豎画は垂直である。これは現代の黒体(ゴシック体)と同じである。
起筆は、横画とおなじく筆の穂先が外にあらわれない描き方である。直線化して角が立っている。横画に対応するように、少し強くするようにあるようにした。
豎画の送筆も、筆の穂先の中心が中央まっすぐにとおり、左側のアウトラインも右側のアウトラインもそれに沿うように描き出されている。ごくわずかに抑揚がつけられている。
収筆はほんの少しだけ力をためて留めている。豎画の起筆と収筆は、ほぼ対称になっているようだ。
豎画も、毛筆で書かれたものを彫刻によって整理され、さらに活字書体化をはかるときにより様式化をすすめていくことになった。