活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第11回 概形と抱懐

筆法は筆画ひとつひとつをどう画くかということであり、結法は組み立て方である。結法(結構法)については、佘雪曼(シャ・セツマン、1908−1993)の「結構四十四法」を下敷きにして、活字書体に当てはまらない八法を除いて「活字書体結構三十六法」として再構築することにした。

 

概形とは、おおまかな形のこと。布で包んで、凸凹のある形をならしてみることを想像すればよい。また、書道用語としての抱懐とは、文字が内包する空間のこと。つまり、外側からみたのが「概形」、内側から捉えたのが「抱懐」ということにあろう。

 たとえば「永」字を箱に入れようとすると、その箱は正方形になるだろう。これを最大字面といっている。しかし実際の概形は正方形にはならない。円形に近い多角形になる。漢字は組み立てによって、それぞれの概形がある。私の名前、「今」は菱形、「田」は方形、「欣」は駒形である。そして「一」。ほかに「上」や「下」のような三角形の漢字もある。「右」や「左」のように字源からくる筆順や長短が決まる漢字もある。漢字はそれぞれ固有の概形を持っている。

 見た目のイメージは最大字面より概形のほうが小さくなる。この最大字面と概形の差によって、文字の大きさのイメージが異なる。最大字面と概形の差が大きい漢字を「抱懐が締まっている」といい、この差が小さい漢字を「抱懐が広い」という。

 楷書では、欧陽詢の「九成宮醴泉銘」などは抱懐が締まっており、顔真卿の「顔氏家廟碑」などは抱懐が広い。隷書でも「曹全碑」は抱懐がしまっており、「乙瑛碑」はやや広いように感じる。

 「活字書体結構三十六法」のうち、「概形・抱懐」にあたるのは、「第一法 長法」と「第二法 平法」である。多様な概形のなかからとくに重要な長形、平形を取り上げている。

 

第一法 長法

東・身などのようにもともと長い字は、概形を正方形にしてはいけない。抱懐を上下にすこし締めて書くとよい。

 

第二法 平法(★短法)

四・西などのようにもともと平たい字は、概形を正方形にしてはいけない。抱懐を左右にもすこし空間をあけて書く。