活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第12回 整斉と参差

筆法は筆画ひとつひとつをどう画くかということであり、結法は組み立て方である。筆法をエレメント、結法を字形という人もいるが、わたしは筆法、結法ということにしている。

 結法(結構法)については、佘雪曼(シャ・セツマン、1908−1993)の「結構四十四法」を下敷きにして、活字書体に当てはまらない八法を除いて「活字書体結構三十六法」として再構築することにした。

 

整斉(セイセイ)、参差(シンシ)というのも聞きなれないと思うが、これまた書道用語からの転用である。

 手元の電子辞書(デジタル大辞泉)によると、

せい−せい【整斉/斉整】

[名・形動](スル) 整いそろっていること。整えそろえること。また、そのさま。

しん−し【参差】

[ト・タル][文][形動タリ]互いに入りまじるさま。また、高低・長短などがあって、ふぞろいなさま。

 文字を書くとき、まず揃えることが基本とされる。左右対称が鉄則という。一方で、長短の差など変化をつけるということもある。整斉と参差とは、まるで矛盾していると思われるかもしれない。

中国・清の書家、王澍(オウ・ジュ、1668−1739 or 43)は、「結字すべからく整斉中に参差たること有らしむべし」といった。すなわち「揃えるけれども揃えない」ということだろう。

 この書法芸術における考え方を念頭におきながら、活字書体の造形について簡単にまとめてみたい。

 

◆空間の調整

第三法 並列法(例:書・麗など)

横画・豎画が並列する場合、間隔が等しくかつ変化のある結法。

第四法 交錯法(例:中・典など)

横画・豎画が交錯する場合、配置をすっきりさせて粗密を適合させる。

第五法 支配法(申・可など)

中心となる一画を、全体を支配するように書く。

第六法 接筆法(日・田など) ※「結構四十四法」にはないが追加した

「つく・はなす」を気にされる人が多いようだが、これは接筆法によると考える。すなわち「接筆は離す」ということは筆跡を見せることであり、あるいは空間を開いて明るくする工夫でもある。

 

◆太さの調整

第七法 疏法(例:不・介など)

筆画が少ない字では、抱懐に注意し、重心が釣り合いをたもつように書く。

第八法 密法(例:顯・鬱など)

筆画がこみいった字では、譲り合いながら書く。

 

◆大きさの調整

第九法 大法(例:鑿・鼈など)

もともと大きい字では筆画を密にして、大きく感じさせないように書く。

第十法 小法(例:日・工など)

もともと小さい字では太く強くして、小さく見えないように書く。

 

◆均衡

第十一法 斜法(例:乃・力など)

傾斜した字ではつりあいをとり、安定して見えるように書く。

第十二法 正法(例:王・正など)

端正な字では重心を安定させつつ、変化があるように書く。

第十三法 向法(物・喝など)

左右が向かい合う字では角度に変化をもたせ、たがいに調和するように書く。

第十四法 背法(非・北など)

左右が背いている字では気脈を貫通させ、たがいに連絡するように書く。

 

◆変化

第十五法 筆法変化法(癸・契など) ※「結構四十四法」にはないが追加した

磔法(ハライ)が重なった場合に一方を瓜子(トメ)にするなどして、筆法に変化をつけて譲り合うようにする。

第十六法 長短変化法(重・章など) ※「結構四十四法」にはないが追加した

横画が重なった場合に画線の長短によって変化をつけてゆずりあうようにする。

第十七法 重併法(例:炎・弱など)

同じ部位をかさねた字では、左(上)を小さく右(下)を大きく書く。

第十八法 重掠法(例:夏・冬など)

掠法がならんだ字では、平行して同じにならないように書く。