活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

和字・第1回 復刻、翻刻、そして新刻(和字書体)

復刻(活字→活字)

復刻とは、書物として以前に出版したものを新しく版を作り直し、もとのとおりに刊行することである。転じて、もともと活字書体として制作されたものを、デジタルタイプとして再生することを復刻ということにする。

筆者が仕事として最初に取り組んだ和字書体は復刻だった。写植文字盤の書体で、「かな民友明朝」と「かな民友ゴシック」である。初号活字の清刷りを支給されたので、初号活字なのでアウトラインは整っていた。写植原字の標準サイズだった48mm角に拡大したフィルム上で、アウトラインを変えないように注意しながら修整していった。

欣喜堂・和字書体三十六景の「きざはし」や「たおやめ」などは、書籍の本文が原資料である。書体見本帳のように全部のキャラクターが並んでいるわけではないが、ひらがなだと数ページでだいたいのキャラクターを抽出することができた。カタカナも一冊を通して、できるだけ揃えるようにした。

抽出したキャラクターのスキャン・データをテンプレートとして取り込んで、これを下書きの代わりとした。本文サイズからの拡大なので、初号活字とは異なり、画質はガタガタである。アウトラインでの制作においては、もとのタイプサイズのものを見ながら作業を進めることにした。

 

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翻刻(書字・レタリング→活字)

翻刻とは、写本・版本などを、原本どおりに活字に組むなどして新たに出版することである。転じて、書字やレタリング(木版印刷など)から、デジタルタイプとして制作することを翻刻ということにする。

筆者が仕事として最初に取り組んだ翻刻の和字書体は「艶」である。与謝野晶子の書字の中からできるだけのキャラクターを抽出し、これを横に置いて、それを見ながら48mm角の下書き用紙に鉛筆で描き、それをフィルムにトレースして仕上げていった。

欣喜堂・和字書体三十六景では、書字が原資料の「さよひめ」、木版印刷によるレタリングが原資料の「げんろく」は、おもに影印本(写真的に複製したもの)を利用した。

書字やレタリングでは、同じキャラクターでもすべて異なるカタチになる。抽出にあたっては、連綿していない文字のうち、全体の書風が現れているものを注意深く選び出した。翻刻の場合、この判断が書体そのものを決定づける重要なプロセスとなるのである。

「さきがけ」や「さくらぎ」などは木版印刷の書物からキャラクターを抽出した。これらは連綿していないが、同じキャラクターでも異なるカタチになることには変わりない。

「艶」の場合は、抽出したものを横に置いて見ながら下書きをしたが、和字書体三十六景での翻刻書体では、復刻書体と同じように、スキャン・データをテンプレートとして取り込んだ。

 

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新刻

新刻とは、新たに版木を刻むことである。転じて、下書きから書き起こして制作することを新刻ということにする。既成の活字書体を下敷きにしたとしても、書風をまったく変えてしまうような場合は新刻である。

写植書体の時代の「いまりゅう」「今宋」の和字書体は下書きから書き起こした。48mm角の下書き用紙に鉛筆で描き、それをフィルムにトレースして仕上げていくという方法であった。

欣喜堂では新刻で制作することは少なかったが、「きたりすロマンチック」「きたりすゴシック」「きたりすアンチック」では下書きから書き起こす方法で制作している。

2cm角のボディサイズで下書きをして、これをスキャンデータとしてテンプレートに取り込み、アウトライン化していくという方法をとっている。