活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

和字・第2回 よりどころとねらい

活字書体とは

「書体」とは何か。『広辞苑』(岩波書店)には次のように記されている。

しょたい【書体】

①字体を基礎に一貫して形成された、文字を表現する様式・特徴・傾向。漢字の楷書・行書・草書、活字で和文明朝体・ゴシック体・アンチック体など、欧文のイタリック体・ローマン体・サンセリフ体・スクリプト体などの種類をいう。

②文字の書き表し方。書きぶり。書風。

 

大辞泉』(小学館)には別に「活字書体」が立項されており、次のように記されている。

かつじ-しょたい【活字書体】

活字として、印刷を前提にデザインされた書体。和文には明朝体・ゴシック体・アンチック体など、欧文にはローマン体・イタリック体・ゴシック体・スクリプト体などがある。

 

筆者は、書字の場合は「書体」、活字に関しては「活字書体」ということにしている。ただし、活字の場合でも、漢字書体、和字書体というように省略して用いることもある。

また、「明朝体・ゴシック体・アンチック体など」という例示は、カテゴリーの種類ではなく、しょたい【書体】の②項の意味を含めて、「○○明朝」というような個別のものも「活字書体」ということにする。

 

和文」について、『広辞苑』(岩波書店)では次のように記されている。

わぶん【和文

①日本語で書かれた文章。国文。

②和語で綴った文章。平安時代の仮名文の系統に属する文。雅文

③日本の文字。和字。特に、仮名を指す。

 筆者は、①の意味では「日本文」とし、②の意味で「和文」というようにしている。③の意味では「和字」を使う。日本文は「漢字仮名交じり文」ともいうように、漢字・和字・欧字の組み合わせたものであるという考え方をとっている。

 

活字書体のなづけ(きたりす)

和字書体の設計にあたって、まずは名前をつけるようにしている。正式に発売するときに検討するかもしれないが、まずは名前をつけるのだ。

デジタル大辞泉』で例示された「明朝体清朝体・宋朝体」は漢字書体である。「明朝の仮名」というように、和字書体は漢字書体に従属するという考えがあるが、けっして漢字に従属するものではないのである。

そこから脱して和字書体もそれぞれが独立した書体名称をもつことを提案したい。和字はもともと漢字からつくられたが、平安時代から千二百年以上にわたって日本で使われてきた。和字書体も、漢字書体や欧字書体に優るとも劣らない歴史を刻んできている。

和字書体の名称は和字2字から6字程度で表記できることが望ましいと考え、漢字で表記することも避けている。できれば和語が望ましいが、止むを得ず外来語(漢語・欧米語)にすることもある。その場合でも和字(ひらがな・カタカナ)で表記することを基本とする。

復刻書体・翻刻書体では、原資料に由来した名前にしようと思っている。具体的には、人名、地名、書名などにすることが多い。できれば発音が被らないように心がけているが、なかなかうまくいかないこともある。

「きたりす」のような新刻書体の場合には、書風のイメージから連想して付けている。『大辞泉』(小学館)には「きたりす」が立項されている。

きたりす【北栗鼠】

リス科の哺乳類。アジア北部からヨーロッパにかけて最も普通にみられるリスで、主に針葉樹林にすむ。冬の耳の毛はふさふさしている。エゾリスはこの一亜種。

 当初は、北海道に生息している「えぞりす」(蝦夷栗鼠)を名前にしようと考えたが、どうも語呂が良くない。蝦夷栗鼠が北栗鼠の亜種であることから「きたりす」(北栗鼠)に落ち着いた。

 

活字書体のよりどころ(きたりす)

復刻書体・翻刻書体では、1970年代以降の活字書体は取り上げていない。発表後50年以上経過していること、現在のデジタルタイプとして継承されていないことを条件としているからである。新刻書体を制作するとすれば、現代の「和字コンテンポラリー」という新しいカテゴリーにしたいと考えた。

和字モダンスタイルとしては、すでに「和字書体三十六景」の「うぐいす」、「和字書体十二勝」の「ひばり」と「めじろ」を制作した。さらに和字モダンスタイルの「めじろ」に対して和字ゴシック体の「めぐろ」を制作している。

「ほしくずやコレクション」では和字モダンスタイルの「ときわぎ」のほか、「みそら」のグランドファミリーを制作しているが、これは和字コンテンポラリーになるのではないかと考えている。「きたりす」のグランドファミリーは、「ときわぎ」と「みそら」の中間という位置付けにしたい。

「ときわぎロマンチック」…「きたりすロマンチック」…「みそらセイム」

「ときわぎゴチック」  …「きたりすゴチック」  …「みそらテンガ」

「ときわぎアンチック」 …「きたりすアンチック」 …「みそらウダイ」

 

活字書体のねらい(きたりす)

活字書体の紹介文などで、「美しい」「かわいい」「明るい」「現代的な」というような抽象的な言葉で書かれることが多い。使用する立場で言えば、そのようなイメージで受け取るのである。制作者としても、そういった抽象的な概念を制作のよりどころにしている。

自分が思い描いたことと、その書体から受ける印象が一致していることが望ましい。客観的な印象を見える形にしてみたいと思い、アンケートを取ったりすることもある。アンケートの方法として「イメージ調査」を試みたことがある。それは時代によって変わってくるだろうし、年代、性別、居住地などによって異なることもあるだろう。

さて、「きたりす」ではどうだろうか。