活字書体をつくる

新しい活字書体を制作するための覚え書きです。修正・加筆することがありますのでご了承願います。

白澤#02 制作意図と概念

石井賞創作タイプフェイスコンテストでは審査の時の参考資料として「制作意図」を記入することになっており、それは入選した時に作品集にも掲載された。最近のタイプデザインのコンペティションでも同様であろう。

 

漢字書体の名称(白澤)
最近のタイプデザインのコンペティションでは、応募するときに応募者が活字書体の名前を決めることになっている。石井賞タイプフェイスコンテストの場合には名前が付けられず、暫定的に「第七回石井賞一位書体」のように呼ばれ、発売時になって写研の社長が命名するのが慣例となっていた。

欣喜堂の漢字書体の名称は中国語フォントでも共有できるように、漢字2文字を基本に決めている。原資料に由来する「陳起」「志安」のような人名、「金陵」のような地名、「武英」「方広」のような書名、「龍爪」のような特徴、漢語を基本としている。
近代の漢字書体では、中国の節句から「上巳」「端午」「七夕」「重陽」と関連づけて命名した。日本発の活字書体は「倫敦」「伯林」「巴里」のように欧米の都市の漢字表記にしている。
「白澤」については、『広辞苑』でも立項されている。

はくたく【白沢】
中国で、想像上の神獣の名。よく人語を話し、万物の情に通じる。黄帝が得たと伝える。

「澤」と「沢」は同字の旧字体新字体であり、現代の日本語では「白沢」を使うのが本則であるが、「白澤」が使われることも多い。漢字書体の名称としては「竜爪」から「龍爪」に変更したように、「白沢」より「白澤」とすることにした。
グランドファミリーとして「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」と呼ぶことにしたが、ゴシック、アンチックという表記を避けて、あくまで漢字表記にこだわった。

 

制作意図(白澤)
欣喜堂では、近代明朝体として「美華」と「上巳」、呉竹体として「伯林」と「端午」、安竹体として「倫敦」を試作している。
「白澤」は、欣喜明朝・欣喜ゴシック・欣喜アンチックの流れを受けて、当初は東京築地活版製造所や秀英舎の書体の復刻を模索していたが、それでは「漢字書体二十四史」「漢字書体十二州」と区別がつかなくなると判断した。そこで、今までに試作した書体とは異なる現代的なイメージの書体とすることにした。
その上で、和字書体「きたりす」の他に、「ときわぎ」、「みそら」のグランドファミリーを制作しているが、これらにマッチするように設計していきたい。

「白澤明朝」と組み合わせる和字書体
 「きたりすロマンチック」「ときわぎロマンチック」「みそらセイム」
「白澤呉竹」と組み合わせる和字書体
 「きたりすゴチック」「ときわぎゴチック」「みそらテンガ」
「白澤安竹」と組み合わせる和字書体
 「きたりすアンチック」「ときわぎアンチック」「みそらウダイ」

 

概念(白澤)
日本語の文章は漢字書体だけで組まれることは少ないが、漢文崩し(漢文を訓読したような文体で書かれた文章)のような漢字の割合の多い文章では、和字書体よりも漢字書体のイメージが強く反映する。
本文以外で、例えば住所や氏名の表記、看板、標識の類、書籍のタイトルなどのような短い文字列において漢字書体のみで組まれることも多い。これらには和字書体のイメージは影響しない。

中国語の文章では、ほとんど漢字書体だけで組まれている。欣喜堂の書体は、北京北大方正電子有限公司との提携により中国語フォントとしても発売しており、漢字書体のイメージも重要だと考えている。
漢字書体においても、「美しい」「かわいい」「明るい」「現代的な」などのように抽象的な言葉で書かれることが多い。漢字書体としても「イメージ調査」を行いたいところである。使用する言語によって受けるイメージは異なるのだろうか。

 

 参考:『広辞苑』(岩波書店)より

かんぶん‐たい【漢文体】
文章が漢文になっていること。また、漢文訓読の口調にならった文体。

わぶん‐たい【和文体】
平安時代に主に女性が書いた物語・日記などに見られる文体。