「武英」の十字二法
清代前期の武英殿銅活字本『古今図書集成』(1726年、武英殿)をベースにした「武英」の字様をみていきたい。
これまでみてきた楷書系書体がそうであるように、「武英」もまた横画が細く豎画が太い。ファミリー化にあたっては、横画は細いままで、豎画のみ太くすることになる。
1 横画
武英殿銅活字本において横画が水平になった。ここにいたって、右手で持たれた筆記具で書かれた必然から脱し、様式化の新たな段階にはいったといえよう。
起筆は「金陵」とほぼ同じで、書写のカタチがうまく単純化されている。上部、下部ともになだらかに送筆につながっている。
送筆は、水平で直線的である。上側、下側はまったく平行になった。
「金陵」と同じように収筆にコブ状の押さえがある。「金陵」のほうがやや彫刻的でシャープであり、「武英」ではやや丸みを帯びてきているようだ。木版よりも銅活字の方が細工しやすかったのだろうか。
彫刻しやすいように単純化され水平になった一方で、素材の違いによるものかどうかはわからないが、少し肉筆の柔らかさを取り戻したように感じられる横画である。
2 豎画
豎画は起筆の左部がバッサリと削ぎ落とされている一方で、右部は大きく膨らんで丸みを帯びている。横画の収筆との一体感を出しているようだ。
送筆の左右のアウトラインは平行である。左のアウトラインは、起筆と収筆にゆるやかなアクセントがついただけである。右のアウトラインは少し丸くしながら収筆に向かっているようだ。
収筆は「金陵」と同じように一度力をためてから引いているが、その引き方は小さく重い。ふくらみがあるのは、横画の収筆とのバランスを取るためだろう
武英殿銅活字本の「武英」は、明代刊本の「金陵」にくらべて、豎画も単純化をすすめていながら、「金陵」の彫刻的なイメージから書写の柔らかさを取り戻している。