活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第8回 補足十二法

「永字八法」では、多くの筆法が不足している。その不足を埋めるものとして、「変化法」とよばれるものがある。その中から、まず必要最小限のものとして、ちくま新書の『書を学ぶ』(石川九楊筑摩書房、1997年)に倣って「補足十二法」としてまとめてみた。

① 宝冠

宝蓋ともいう。第一画は、入筆が弱い場合には雨粒状の「懸珠」、強い場合には核粒状の「杏仁」となる。第二画は転折で強く押さえ、短く勢いよく書く。

② 獅口

獅子が口を開けた姿に似ていることからこの名前がある。「方勾」ともいう。「宝冠」の転折以降を伸ばして、収筆から左上に跳ねあげる。転折はあまり強くなく、収筆で強く書く。

③ 浮鵞

鵞鳥が尾をあげて水に浮かんでいる姿に似ていることからこの名前がある。「乙勾」ともいう。起筆は強くし、力を弱めながら湾曲させ、収筆で上に向けて押し出す。

④ 飛雁

雁が飛ぶ姿に似ているところからこの名前がある。左上から右下に向けて斜めに反るように運筆し、収筆でゆるめてから右上に跳ね上げる。

⑤ 鳳翅

鳳凰の羽に似ているところからこの名前がある。「飛雁」と「浮鵞」の中間の筆法。転折から右下へと強く押し込むように運筆し、収筆でゆるめてから右上に跳ね上げる。

⑥ 搭鉤

搭鉤とは熊手(武器)のことで、熊手に似ているところからこの名前がある。一画であるが、縦筆でいったん切り、あらためて横筆を書く。この横筆の起筆は強く、右にゆっくりと書き出す。

⑦ 新月

雲間から見える細い新月の姿に似ているところからこの名前がある。「懸戈」ともいう。前半が竪画の「弩」、後半が撇画の「掠」との合体とも考えられる。「川」の第一画。いったん右下へ向かうように書き始め、半ばすぎから左下へ向かうように書く。

⑧ 鉤鎌

曲りの大きな鎌(武器)に似ているところからこの名前がある。「新月」がなだらかなカーブであるのに対し、「鉤鎌」は反りの強いカーブを描いている。

⑨ 戯蜨

蝶がひらひら舞う姿に似ているところからこの名前がある。一画であるが、第一筆は右上から左下に右回転にカーブしながら書き、あらためて右下に向けて右回転のカーブで押さえる。

⑩ 蟠龍

とぐろを巻いた龍の姿に似ているところからこの名前がある。「戯蜨」を上下にふたつ並べた書き方である。三画だが五筆を要している。

⑪ 吟蛩

吟蛩とはコオロギのことで、コオロギに似ているところからこの名前がある。第一画と第二画に区切られる。第一画は右上がりの横筆から転折して、まっすぐに左下に抜く。第二画は収筆を右下方へふくらみをもたせ、つぎの第三画にむけて左上に跳ね上げる。

⑫ 柳箕

柳で作った箕に似ているところからこの名前がある。進行方向にひらくように書くのがポイント。第一画は強いカーブで水平に近く書く。第二画は右下に向かい、転折して左下に向かう。第三画、第四画は、第一画と第二画でできた余白を等分するように書く。