活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

和字書体からグランドファミリーを構想する

和字書体三十六景・十二勝から

 和字書体三十六景・十二勝を構成する和字書体は、それぞれが独立したものであるが、これらを組み合わせることにより、グランドファミリーが構築できるのではないかと思う。和字オールドスタイル、和字ニュースタイル、和字モダンスタイル、それぞれを代表する書体について考えてみた。

 

「おゝはなぶさ」「おゝくれたけ」「おゝことのは」

和字オールドスタイル「はなぶさ」は、組み合わせる漢字書体として(本来の)明朝体もしくは清朝体を想定している。しかしながら実際に販売してみると近代明朝体と組み合わせたいという要望が寄せられた。そこで近代明朝体との組み合わせを考えて字面を大きくした「おゝはなぶさ」ファミリー(7ウエイト※)を制作することにした。

※おゝはなぶさM、おゝはなぶさTK、おゝはなぶさDB、おゝはなぶさB、おゝはなぶさEB、おゝはなぶさU、おゝはなぶさBK

これに合わせて、和字ゴシック体「くれたけ」、和字アンチック体「ことのは」についても、字面を大きくした「おゝくれたけ」ファミリー、「おゝことのは」ファミリー(各9ウエイト※)を制作した。

※おゝくれたけL、おゝくれたけM、おゝくれたけTK、おゝくれたけDB、おゝくれたけB、おゝくれたけEB、おゝくれたけU、おゝくれたけBK、おゝくれたけH

※おゝことのはL、おゝことのはM、おゝことのはTK、おゝことのはDB、おゝことのはB、おゝことのはEB、おゝことのはU、おゝことのはBK、おゝことのはH

このほか、「おゝきざはし」に対して「おゝくらもち」「おゝみなもと」の組み合わせや、「おゝまどか」に対して「おゝはるか」「おゝたまゆら」との組み合わせも考えられる。

 [参考]写真植字用文字盤では、1930年から1935年までに、本文用の明朝体(のちの石井中明朝体+オールドスタイル小がな)、太ゴシック体(初期のかな)、それにアンチック体(和字書体のみ)が制作されている。

 

 「たおやめ」「ますらお」

和字ニュースタイル「たおやめ」と和字ゴシック体「ますらお」は、和字書体三十六景の中で人気の高い書体である。これをファミリー化することにした。「たおやめ」ファミリー(7ウエイト※)、「ますらお」ファミリー(9ウエイト※)である。

※たおやめM、たおやめTK、たおやめDB、たおやめB、たおやめEB、たおやめU、たおやめBK

※ますらおL、ますらおM、ますらおTK、ますらおDB、ますらおB、ますらおEB、ますらおU、ますらおBK、ますらおH

 「たおやめ」と「ますらお」に匹敵する和字アンチック体は制作していない。

 [参考]写真植字用文字盤では、石井明朝体と組み合わされている和字書体のうち、ニュースタイル小がな(1951年)と大かな(1955年)、石井ゴシック体(改定後のかな)がある。また、石井横太明朝体と組み合わされている和字書体が和字アンチック体と見なされる。

 

 「めじろ」「めぐろ」

2019年に発売した和字書体十二勝のなかに、和字モダンスタイル「めじろ」と和字ゴシック体「めぐろ」がある。原資料はどちらも『センサスの経済学』である。これらはまだファミリー化していない。

「めじろ」と「めぐろ」に匹敵する和字アンチック体は制作していない。

 [参考]写真植字用文字盤では、石井明朝体と組み合わされている和字書体のうち、石井茂吉没後の1970年に橋本和夫氏によって制作された仮称「モダンスタイル」(縦組用かな・横組用かな)があるが、ファミリー化されていない。これに合わせる和字ゴシック体、和字アンチック体も制作されていない。

 

ほしくずやコレクションから

 ほしくずやコレクションには、翻刻、復刻という縛りがないので、最初からグランドファミリーを構築する意図で制作している。「ときわぎクラン」と、「みそらクラン」と名付けてみた。クラン(clan)とは一族のことである。

 

「ときわぎロマンチック」「ときわぎゴシック」「ときわぎアンチック」

「ときわぎロマンチック」は『右門捕物全集 第四巻』(佐々木味津三著、鱒書房、1956年)の本文書体を原資料とした復刻書体であるが、グランドファミリーとして「ときわぎゴシック」と「ときわぎアンチック」を新規に制作したので、ほしくずやコレクションとして発売している。

当初は「ときわぎ」としていたが、「ときわぎゴシック」、「ときわぎアンチック」に合わせて、「ときわぎロマンチック」に変更した。ロマンチックとしたのは、語尾を統一したかっただけである。

 

「みそらセイム」「みそらテンガ」「みそらウダイ」

もともと「セイム(星霧)」「テンガ(天河)」「ウダイ(宇内)」という名称で販売している書体であるが、グランドファミリーとしては「みそらクラン」という名称で統一することにした。3ファミリーとも「空」に関する名称だったので「みそら(御空)」ということにした。それぞれファミリー(4ウエイト※)化している。

※「みそらセイムW3」「みそらセイムW5」「みそらセイムW7」「みそらセイムW9」

※「みそらテンガW3」「みそらテンガW5」「みそらテンガW7」「みそらテンガW9」

※「みそらウダイW3」「みそらウダイW5」「みそらウダイW7」「みそらウダイW9」

 

KIDS Labから

 会社を設立して間もない頃に試作していた書体があった。代表的な書体として、「欣喜明朝体」「欣喜ゴシック体」「欣喜アンチック体」であり、さらに「欣喜楷書体」「欣喜隷書体」「欣喜行書体」である。これらは『タイプフェイスデザイン漫遊』(今田欣一著、株式会社ブッキング、2000年)にも掲載されている。

このうち「欣喜楷書体」「欣喜隷書体」「欣喜行書体」は、それぞれ「いぬまる吉備楷書」「さるまる吉備隷書」「きじまる吉備行書」として現在に至っている。

「欣喜明朝体」「欣喜ゴシック体」「欣喜アンチック体」の漢字書体は、のちにtypeKIDSという勉強会の教材として提供した。その際に「「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」に書体名を変更した。同時に、これと組み合わせる欧字書体を「Vrijheid」に、そして和字書体を「きたりす」とした。

ついでながら、『タイプフェイスデザイン漫遊』に掲載された「欣喜セイム」は現在のほしくずやコレクション「みそらセイム」であり、「欣喜ラウンド」は「ロンド」、「欣喜イノセント」は「アンジェーヌ」となって継承されている。

 

「きたりすロマンチック」「きたりすゴシック」「きたりすアンチック」

 「きたりす」(北栗鼠)とは、アジア北部からヨーロッパにかけて最も普通にみられるリスである。最初は北栗鼠の亜種で、北海道に生息している「えぞりす」(蝦夷栗鼠)を考えたが、どうも語呂が良くない。「きたりす」に落ち着いた。

「きたりす」には、漢字書体の「白澤」、欧字書体の「Vrijheid」を組み合わせる。どちらも教材として制作しているもので、今のところ製品化の予定はない。