活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

きたりすの亜種

『タイプフェイスデザイン漫遊』(今田欣一著、株式会社ブッキング、2000年)に「欣喜アンチック」という書体を試作している。その章のタイトルは「悠久の持続性」という大げさなものだった。

 

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筆者はずっと和字アンチック体に注目していた。アンチック体といえば、辞書の見出しや漫画のふきだしに使われる程度だったが、広い範囲で使われる可能性を感じていた。

そこで和字書体三十六景のなかでは「ことのは」という復刻書体を制作し、字面を大きくした「おゝことのは」ファミリーとして展開させた。小学館の『例解学習国語辞典』のために「小学館アンチック」の制作を依頼されたこともあった。さらには和字書体十二勝の「みなもと」と「たまゆら」、ほしくずやコレクションの「ときわぎアンチック」を制作してきた。広く捉えれば「みそらウダイ」も和字アンチック体の範疇であろう。

筆者にとって、これらの和字アンチック体の原点にあるのが「欣喜アンチック」であった。それから20年経って、「欣喜アンチック」のセルフカバーで、和字書体「きたりすアンチック」として制作してみようと考えた。「きたりすアンチック」を起点として、「きたりすロマンチック」、「きたりすゴシック」というグランドファミリーを構築する計画である。

 

復刻書体の場合には、もともとの書籍を資料にしているので本文だと五号活字とか九ポイント活字などである。そこからひらがな・カタカナを抽出して、まずフォント全体のイメージを掴むようにしている。翻刻書体の場合も方法としては同様である。同じ文字が複数存在するので、全体を並べてみて、イメージに合うものをチョイスしていくのである。

「きたりすアンチック」の制作にあたっては、「欣喜アンチック」を原点にしながら、新しいイメージで作ってみようと考えた。復刻書体や翻刻書体ではスキャンデータを直接取り込んだが、「きたりすアンチック」は、どのような方向性で書体を設計していこうかということを決めるためにスケッチをすることから始めた。と言っても、3mm角や4mm角で描くのは容易ではない。ひらがな全体を1枚の用紙で確認できるということから、1mmの桝目の入った方眼紙に2cm角で描いてみることにした。2cm角というのは、ほしくずやコレクションの新規制作書体から始めたものだ。

 

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「きたりすアンチック」は横組みで使うことを意識しているので、ひらがな48字を、アイウエオ順に横書きで描いた。ファミリー化することを睨んで、ライトとブラックの2ウエイトを同時にスケッチしてみた。ファミリーとしての一貫性をあらかじめ確かめておこうというのが狙いである。ひらがなと同じように、カタカナも2cm角で描いてみる。

2cm角だと、ふでづかいも、太さや大きさも、思ったようには描ききれない。この段階では全体のイメージが掴めて方向性を見いだせればいいわけである。この最初のスケッチを観察した上で、もう一度スケッチをやり直すか、次の段階に進むかを見極めることにしよう。