活字書体をつくる

Blog版『欣喜堂ふたむかし』/『欣喜堂四半世紀』

欧字・第2回 コンセプトとインテンション

ネーミング(Vrijheid)
欧字書体のネーミング(命名)は難しい。『欧文書体 その背景と使い方』(小林章著、美術出版社、2005年)には、「書体に名前をつけるのは難しい」というコラムがまとめられている。
小林章さんデザインのFF Cliffordは、発売が決まってからCliffordという名前の書体があることがわかったそうだが、頭にFFをつけることで、その書体のデザイナーであるクリフォード氏の了解が得られたという。同様にTX Lithiumも、他にLithiumという書体があったのだが、こちらもTXをつけると問題ないということで発売されている。
欣喜堂の欧字書体は「欧字書体十二宮」としているが、日本でも馴染みのある黄道十二星座ラテン語表記をそのまま書体名に割り当てた。ただし同名の欧字書体が存在する可能性があるため、頭にKEをつけることで区別できるようにした。

参考:『大辞泉』(小学館)より

こうどう-じゅうにきゅう【黄道十二宮
黄道帯を、春分点を起点として30度ずつ12等分してつけた名称。白羊・金牛・双子(そうし)・巨蟹(きょかい)・獅子(しし)・処女・天秤(てんびん)・天蝎(てんかつ)・人馬・磨羯(まかつ)・宝瓶 (ほうへい)・双魚 (そうぎょ)の12宮。太陽は1年間これらの宮を順に移動するので、古代オリエントから占星術に使われた。現在は歳差により春分点双魚宮に移ったので、十二宮はほぼ一つずつ前にずれている。

黄道十二星座とは、Aries(アリエス牡羊座)、Taurus(タウルス=牡牛座)、Gemini(ジェミニ=双子座)、Cancer(キャンサー=蟹座)、Leo(レオ=獅子座)、Virgo(ヴァーゴ=乙女座)、Libra(リブラ=天秤座)、Scorpio(スコーピオ蠍座)、Sagittarius(サジタリアス=射手座)、Capricorn(カプリコーン=山羊座)、Aquarius(アクエリアス水瓶座)、Pisces(ピスケス=魚座)である。順番につけたので、書体のイメージとはまったく関係ない。
ラテン語由来なので、英語では好ましくない名称もある。蟹座はラテン語でCancer(キャンサー)だが、英語では癌という意味になってしまう。黄道十二星座のひとつなので、これだけ変更するのも変だし、欧字書体として発売するのではないので、このままの名称にすることにした。
追加で制作した「欧字書体四天」は、「欧字書体十二宮」との関連で、馴染みのある星座の名前からつけることにした。この四書体にもKEをつけることにより、バッティングを避けるようにした。
四星座とは、Ophiuchus(オフィウクス=蛇遣座)のほか、任意で選んだCassiopeia(カシオペヤ=カシオペヤ座) 、Orion(オリオン=オリオン座)、Cygnus(シグナス=白鳥座)を加えたものである。これらも書体のイメージとはまったく関係ない。
新刻書体での名称は、Vrijheid Serif(フレイヘイド・セリフ)、Vrijheid Sans(フレイヘイド・サン)、Vrijheid Slab(フレイヘイド・スラブ)とした。
「Vrijheid(フレイヘイド)」は、箕作阮甫を主人公にした小説『フレイヘイドの風が吹く』(市原真理子著、右文書院、2010年)から取った。
フレイヘイドとは自由を意味するオランダ語で、幕末当時の言い方である。オランダ語の発音とは異なるそうだが、書体名としては日本での慣例に従い「フレイヘイド」としておく。
鶴ヶ島市立図書館に出かけて、『講談社オランダ語辞典』(講談社)で「Vrijheid」を調べてみた。

vrijheid [女]
1 自由; 解放,免除
2 特権
3 勝手,気まま,無遠慮

 

インテンション(Vrijheid)
欣喜堂の欧字書体のインテンションは、和字書体、漢字書体と組み合わせることを前提にしたものである。

Vrijheid Serif(フレイヘイド・セリフ)と組み合わせる和字書体と漢字書体
 和字書体:「きたりすロマンチック」「ときわぎロマンチック」「みそらセイム」
 漢字書体:「白澤明朝」
Vrijheid Sans(フレイヘイド・サン)と組み合わせる和字書体と漢字書体
 和字書体:「きたりすゴチック」「ときわぎゴチック」「みそらテンガ」
 漢字書体:「白澤呉竹」
Vrijheid Slab(フレイヘイド・スラブ)と組み合わせる和字書体と漢字書体
 和字書体:「きたりすアンチック」「ときわぎアンチック」「みそらウダイ」
 漢字書体:「白澤安竹」

組み合わせを想定した上で制作するからといって、欧米の各国語の文章を組まないということではない。
全国各地の観光案内や美術館・博物館・資料館などのリーフレットなど、日本国内においても多言語対応で作成されることも多くなった。日本語版、中国語版(簡体字繁体字)のほか、欧米各国語(英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ポルトガル語スペイン語)が当たり前のように置かれている。
日本国内において、和字書体、漢字書体と同様の制作意図を持った書体で、統一して作成する必要なことがあるのではないかと思われる。このような用途も見据えて考えていきたい。

 

コンセプト(Vrijheid)
「Vrijheid(フレイヘイド)」という名前にしようと思った時に、コンセプトは決まっていた。それは、出島版の『トラクタート(TRAKTAAT)』(ドンケル・キュルティウス編、1857年)に用いられた活字書体の復刻を考えていたからである。
ところが、和字書体「きたりす」、漢字書体「白澤」を新刻するにあたって、今まで制作してきた復刻書体にはない現代的なイメージにしていく方向で考え始めた時に、欧字書体「Vrijheid」を考え直す必要があった。
『トラクタート(TRAKTAAT)』用いられた活字書体はモダンローマンに分類される。モダンローマンというのは19世紀の書体である。21世紀に制作するにあたって、コンテンポラリーローマンをめざすべきだろう。
それに合わせて、コンテンポラリーサンセリフ、コンテンポラリースラブというコンセプトで考えていきたい。復刻書体ではなく、新刻書体なのだから。