活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第4回 字庫(フォント)

フォントは中国語で「字庫」という。漢字書体に関する言葉はできるだけ漢字を使いたいので、本記事では「字庫」という言葉を用いることにする。
活字書体は、活字という工業製品の一部分である。漢字書体の字庫(フォント)に納められる字種は、好き勝手に決められるものではなく、一般的な基準によらなければならない。
漢字書体の字庫(フォント)に関連する告示、規格などを以下にまとめる。

 

常用漢字表

2010年11月30日の内閣告示で、『常用漢字表』が改定された。2136字(2352音・2036訓)が掲載されている。
1946年に制定された『当用漢字表』では1,850字で、「日常で使える漢字の範囲」で、表にない字は別の言葉に置き換えるか、かな書きにするという制限色の濃い性格だった。
1981年に制定された常用漢字表には、当用漢字表に95字を追加して1,945字が掲載され、「一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示す」ものとして、制限が大幅に緩められた。法令や公文書、新聞、雑誌などは原則として常用漢字表内の字で表記され、表外の字はふりがなを付ける、などとしている。学校で漢字を教える基準にもなっており、高校の学習指導要領では「主な常用漢字を書けるようにする」ことが目標に掲げられた。
現在の、2010年に改定された『常用漢字表』では、新たに196字の漢字が追加され、あまり使われなくなった5字の漢字が削除された。以前の1,945字に比べて、差し引き191字増の2,136字となった。これによって高校までに学習する漢字の数が1,945字から2,136字に増えることになった。また、音訓が追加・削除・変更されたものがあり、当て字や熟字訓を集めた「付表」の語が追加・変更された。

追記1:教育漢字(通称) 常用漢字表の内、1026字
教育漢字は、常用漢字2,136字のうち、小学校6年間のうちに学習することが文部科学省によって定められた漢字1,026字の通称である。小学校学習指導要領の付録にある学年別漢字配当表によって、小学校の学年別に学習する漢字が定められている。
一般には「教育漢字」と呼ばれることが多いが、「学習漢字」とするところもある。文部科学省ではいずれの呼称も用いていない。
教育漢字が最初に記載されたのは、1948年に公布された『当用漢字別表』で、881字が収載された。1968年に備考漢字を新たに設け、115字が追加された。これが1977年の改定で正式に教育漢字に昇格し、同時にそれまでの配当漢字の対象学年の変更も大幅に行われ合計996字となった。さらに1989年に再度改定され、1,006字となった。2017年には、都道府県名として使われている20字が編入され、1,026字となった。

追記2:人名用漢字 ※常用漢字表の外863字
人名用漢字は、日本における戸籍に子の名として記載できる漢字のうち、常用漢字に含まれないものを言う。法務省により『戸籍法施行規則』別表第二の「漢字の表」として指定されている。
子の名に用いる漢字及びその扱いは、1948年1月1日の戸籍法改正、及びそれを受けた『戸籍法施行規則』で規定されている。日本の戸籍に子の名として記載できる文字は、『戸籍法施行規則』によって原則として常用漢字人名用漢字、カタカナ及びひらがな(変体仮名を除く)、長音符、踊り字(「々」など)のみである。
1948年の『戸籍法』改正により、当用漢字の範囲に含まれない漢字は新生児の名に用いることができないとされたが、1951年に92字を人名用漢字として新たに指定、さらに、1976年28字を追加、1990年118字を追加し、1997年から2004年7月までに6文字追加して、290の漢字が人名に用いることができるようになった。
2004年9月には法務省令で『戸籍法施行規則』を改正し、488字の大幅な追加がなされた。これまで人名用漢字の許容字体とされていた異体字205字(「龍・彌」など)も人名用漢字となった。この時点で人名用漢字の総数は983字となった。
さらに2009年4月に2字が追加され985字、2010年11月に『常用漢字表』へ追加された129字を削除、逆に『常用漢字表』から削除された5字を追加し、合計861字となった。現在は、さらに2015年と2017年に2字追加され、合計863字である。
常用漢字文部科学省所管だが、人名用漢字法務省所管である。

 

日本産業規格 (JIS)

JIS X 0208
主として情報交換用の2バイト符号化文字集合を規定する日本産業規格(JIS)である。規格名称は「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合 」という。第1次規格(1978年)から第5次規格(2012年)まである。制定された年により、第1次規格は78JIS、第2次規格は83JIS、第3次規格は90JIS、第4次規格は97JISと呼ばれている。
※本記事では漢字に限定して記しています

JIS C 6226-1978「情報交換用漢字符号系」
(第1次規格、1978年に制定)
漢字は、第1水準漢字2,965字、第2水準漢字は3,384字の合計6,802字からなっていた。

JIS C 6226-1983「情報交換用漢字符号系」
(第2次規格、1983年に第1次規格を改正、JISに分類記号「X」の情報部門が新設されたのにともなってJIS X 0208-1983に移行)
漢字では、異体字の区点位置の入れかえが行われ、また、約300文字の漢字の字形が変更された。

JIS X 0208-1990「情報交換用漢字符号」
(第3次規格、1990年に第2次規格を改正)
225文字の漢字の字体が変更され、第2水準に2文字が追加された。字体の変更のうちの一部および2文字の追加は、1990年3月に人名用漢字別表に追加された118文字に対応するためであった。

JIS X 0208:1997「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合」
(第4次規格、1997年に第3次規格を改正)
漢字の追加、削除または区点位置入れかえはおこなわれず、例示字体も一切変更されなかった。

JIS X 0213
JIS X 0208:1997を拡張した、日本語用の符号化文字集合を規定する日本産業規格 (JIS) で、規格名称は「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合」である。2000年に制定、2004年、2012年に改正された。2000年に制定されたJIS X 0213:2000は通称「JIS2000」と呼ばれている。2004年に改正されたJIS X 0213:2004は通称「JIS2004」と呼ばれている。
※本記事では漢字に限定して記しています

JIS X 0213:2000「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合」
JIS X 0208を拡張した規格。JIS X 0208が規定する6,879字に対して、日本語の文字コードで運用する必要性の高い4,354字が追加され、計11,233字を規定する。JIS X 0213は、JIS X 0208を包含し、更に第3・第4水準漢字などを加えた上位集合である。
JIS X 0208を拡張する点においてJIS X 0212:1990「情報交換用漢字符号-補助漢字」と同目的であるが、JIS X 0212JIS X 0213との間に互換性はない。
JIS X 0213:2004「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合」
JIS X 0213:2000の例示字形を変更している。変更があったのは全部で168字である。この変更は、国語審議会の答申「表外漢字字体表」に示されている字体に合わせるものである。また、第3水準に10字が追加された。Unicodeで別の符号が与えられていたために追加されたもので、これらは従来の文字に対する異体字である。
漢字のみの字数では次のようになる。
JIS第1水準漢字 : 2,965文字
JIS第2水準漢字 : 3,390文字
JIS第3水準漢字 : 1,259文字
JIS第4水準漢字 : 2,436文字


Adobe-Japan1

Adobe-Japan1とは、アドビシステムズ社が日本語DTP用に開発した文字集合規格である。現在Adobe-Japan1-0から1-7までがある。
1990年代に定義された1-0から最新の1-7まで、順次字数が追加されている。あとからの入れ替えや削除はないので、OpenTypeフォントの製品においては 事実上の基準となっている。
※本記事では漢字に限定して記しています

Adobe-Japan1-0
83JIS(JIS第1水準・第2水準漢字)に対応。漢字は6,653字。
Adobe-Japan1-1
90JIS(JIS第1水準・第2水準漢字)に対応。漢字は6,655字。
Adobe-Japan1-2
Adobe-Japan1-1にIBM選定文字 (機種依存文字) を追加。漢字は7,014字。
Adobe-Japan1-3(Std/StdN)
Adobe-Japan1-2に記号などを追加。漢字の追加はなし。漢字は7,014字。
Adobe-Japan1-4(Pro/ProN)
JIS2000(JIS第3・第4水準漢字)のうち実用性の高い文字の大半をカバー。漢字は9,138字。
Adobe-Japan1-5 (Pr5/Pr5N)
JIS2000(JIS第3・第4水準漢字)を全てカバー。漢字は12,676字。
Adobe-Japan1-6(Pr6/Pr6N)
JIS2004(JIS第3・第4水準漢字)と補助漢字JIS X 0212:1990)の残りをカバー。漢字は14,663字。
Adobe-Japan1-7
元号「令和」の合字を追加。

このうち最もポピュラーなのがAdobe-Japan1-3で、多くのメーカーがこの規格に準拠したフォント製品にStdやStdNの名称を付与している。
同じAdobe-Japan1-3であるが、Stdは90JIS、StdNはJIS2004の字体、つまり国語審議会の答申「表外漢字字体表」に示されている字体に合わせたものである。 StdNだけでなく、ProN、Pr5N、Pr6Nなどもこれと同じ関係である。