活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

欧字・第11回 キャピタル・レター

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キャピタル・レター(capital letters)は、大文字のことである。マジュスキュール(majuscule)ともいう。金属活字では、活字ケースを植字台の上部に立てかけたことから、アッパー・ケース(upper case)と呼んでいた。

キャピタル・レターの源流は、ローマ帝国時代にある。とくにローマ市街地の中心地、フォロ・ロマーノ地区に残るトラヤヌス帝(53年-117年、在位98年-117年)のダキアルーマニア)征伐の勝利を記念した大円柱の基壇部に設置されている碑文が、インペリアル・キャピタル(帝国の大文字)のシンボリック的な存在となっている。

インペリアル・キャピタルの筆記体として、写字生や著述家が好んだ書体がラスティック・キャピタルである。このラスティック・キャピタルは1世紀前半から5世紀後半までの間に、詩人ヴェルギリウス・ロマーヌス(前70年–前19年)の『エクローガ』(5世紀後半)など、格式の高い写本に多く使われている。

これらは、ルネサンス期のローマン体に受け継がれ、現代のローマン体へと継承されている。欧字書体も、書写(カリグラフィ)が基本にある。手で書かれた自然な形が落ち着いて見えるのだ。実際にカリグラフィ用のペンで書いてみることにより、それぞれの形象が理解できるだろう。

文字によってプロポーションの差があり、例えば、Oはゆったりとワイドに、Sはすらりとしてタイトになっている。平筆や平ペンで書いたときの名残でアクシス(軸)が少し傾いているので、これが文章にしたときに心地よいリズムを与えてくれる。

漢字書体とは異なり、MやWを正方形に押し込めようとすると黒みが強くなる。逆にK、B、Eを正方形に近づけようとすると間が抜けたようになる。また、C、S、Jを巻き込みすぎるのも不自然である。

一方、19世紀に生まれたサンセリフ体やスラブセリフ体は、当初は産業革命時のイギリスでポスターなどに使われるための書体であったため、すべてのキャラクラーのプロポーションを均一化する傾向にあった。現代では、ローマ時代の碑文のようなプロポーションに近い書体が現れていることは注目される。