活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

「志安」の十字二法

元代の福建地方の刊本である『分類補註李太白詩』(1310年、勤有書堂)をベースにした「志安」の字様をひもといていきたい。

「志安」も横画が細く、豎画が太くなっているので、ファミリー化する場合には、横画は細いままで、豎画のみ太くすることになるだろう。

 

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1 横画

もっとも特徴的なのは起筆であろう。逆の方向から入り、しっかりと折り返している。上にくる文字とのつながりを感じさせるようだ。

送筆も弓なりになっている。上側のアウトラインからすでにカーブを描いており、下側のアウトラインもそれに沿うように大きく湾曲している。「陳起」「龍爪」といった宋朝体が硬質であるのに対して、元朝体である「志安」は、全体的に柔らかい印象を受ける。

横画全体は12度程度の右上がりになっている。宋朝体「陳起」が9度だったから、さらに急な角度になっている。だが、大きく湾曲しながら筆を送り、起筆よりも軽い収筆によって、その急角度をあまり感じさせない。さらに、つぎの点画へのつながりを感じさせるように軽く押さえてから上方に折り返している。

「志安」の横画は、気連、気脈を意識しているので、楷書でありながらも行書風のイメージを醸し出している。

 

2 豎画

豎画の起筆も、下方から突き上げるように入り、しっかりと折り返している。

縦に力強く引き下ろしている。横画とは異なり、左側のアウトラインは直線に近い。右側のアウトラインで抑揚をつけている。豎画で大きな変化をつけることはむずかしいのである。

収筆は「龍爪」と同様に一度力をためてからゆっくりと下方に引き抜いている。漢字は、横に並べるよりも、縦に並べるほうが良い構造になっている。

豎画は、横画同様の折り返しの起筆になっているが、収筆はそのまま引き抜く筆法になっている。彫刻により様式化されているが、豎画もまた楷書でありながらも行書風のイメージを醸し出している。