活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第2回 概念・意図

概念

日本語の文章は漢字書体だけで組まれることは少ないが、漢文崩し(漢文を訓読したような文体で書かれた文章)のような漢字の割合の多い文章では、和字書体よりも漢字書体の形象(イメージ)が強く反映する。

本文以外で、例えば住所や氏名の表記、看板、標識の類、書籍のタイトルなどのような短い文字列において漢字書体のみで組まれることも多い。これらには和字書体の形象は影響しない。

中国語の文章では、ほとんど漢字書体だけで組まれている。欣喜堂の書体は、北京北大方正電子有限公司との提携により中国語フォントとしても発売しており、漢字書体の形象を、和字書体と同様に重要視している。

 

制作意図

近代の漢字書体では、『座右之友』(東京築地活版製造所、1895年)所載の「五號明朝」および「五號アンチック形文字」「五號ゴチック形文字」をもとに、明朝体・呉竹体・安竹体を主要三大書体分類として位置付けている。これを縦軸にして、縦軸を草創期・充実期・展開期に分類した。

草創期は『旧約全書』と『座右之友』から抽出して、近代明朝体「美華」、呉竹体「伯林」、安竹体として「倫敦」を制作している。

充実期は『中国古音学』(張世禄、商務印書館、1930年)から近代明朝体「上巳」、『瞿秋白文集』(北京・人民文学出版社、1953年)から呉竹体「端午」を制作している。安竹体では参考となる漢字書体が見つからなかった。さらに展開期としては、新刻で「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」を制作している。

本書では、近代の漢字書体の原点とも言える草創期の三大書体を復刻した「美華」、「伯林」、「倫敦」を取り上げている。

 

漢字書体の名称

欣喜堂の漢字書体の名称は中国語フォントでも共有できるように、漢字2文字を基本に決めている。原資料に由来する「陳起」「志安」のような人名、「金陵」のような地名、「武英」「方広」のような書名、「龍爪」のような特徴、漢語を基本としている。

日本発の漢字書体は「倫敦」「伯林」「巴里」のように欧米の都市の漢字表記にしている。充実期の漢字書体には、中国の節句から「上巳」「端午」「七夕」「重陽」と関連づけて命名した。

「白澤」とは、中国で、想像上の神獣の名である。「澤」と「沢」は同字の旧字体新字体であり、現代の日本語では「白沢」を使うのが本則であるが、「白澤」が使われることも多い。漢字書体の名称としては「白澤」とすることにした。「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」と呼ぶことにしたが、ゴシック、アンチックという表記を避けて、あくまで漢字表記にこだわった。