活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第23回 混植

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漢字書体だけの文章

漢字書体だけでの文章組みとしては、『千字文』が挙げられる。千字文とは、中国・梁の時代に、武帝(在位502年―549年)が周興嗣に命じて作らせた、文字習得のための教材である。

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1000字の異なる漢字を一度の重複も無しに組み合わせて作った250の四字句からなる韻文で構成されている。千字文は漢字書体だけの文章の見本として最適である。

欣喜堂では、冒頭の24の四字句(96字)を試作用字種としている。「竜」のように日本で通常使用されている字体を用いた。

天地玄黄 宇宙洪荒 日月盈昃 辰宿列張 寒来暑往 秋収冬蔵 閏余成歳 律呂調陽 雲騰致雨 露結為霜 金生麗水 玉出崑岡 剣号巨闕 珠称夜光 果珍李奈 菜重芥薑 海鹹河淡 鱗潜羽翔 竜師火帝 鳥官人皇 始制文字 乃服衣裳 推位譲国 有虞陶唐

さらには、千字文の全文を組んでテストしている。ただし1000字中18字は第一・第二水準漢字に含まれていない。そこで、①読みが同じ、②形がよく似ている、③意味も少し似ている、ということを基準に、別の漢字で代用している。

周興嗣の『千字文』以後、『続千字文』(侍其良器、宋代)、『集千字文』(徐青藤、明代)などがある。日本でも、『世話千字文』(江戸時代)などが作られている。2000年9月には、地質学者の石渡明氏によって『平成千字文』が創案されている。

 

和漢欧混植の文章(一)

漢字書体では書体見本字種12文字のほか、「千字文」冒頭の24の四字句(96字)を試作するので、この訓読文(漢字カタカナ交じり文・漢字ひらがな交じり文)をテスト用の組み見本としている。

千字文 SENJIMON

天ハ玄ク、地ハ黄。宇宙ハ洪荒ナリ。日月ハ盈昃シ、辰宿ハ列張ス。寒サハ来リ暑サハ往キ、秋ニハ収メテ冬ニ蔵ワウ。閏余ハ歳ヲ成シ、律呂ハ陽ヲ調ノウ。雲ハ騰リテ雨ヲ致ラシ、露ガ結ベバ霜ト為ル。金ハ麗水ニ生ジ、玉ハ崑岡ニ出ズ。剣ヲ巨闕ト号シ、珠ヲ夜光ト称ス。果ハ李、奈ヲ珍トシ、菜ハ芥ト薑ヲ重ンズ。海ハ鹹ク、河ハ淡シ。竜師ト火帝ト、鳥官ト人皇ト。始メテ文字ヲ制リ、乃チ衣装ヲ服ル。位ヲ推シ、国ヲ譲ル、有虞ト陶唐ハ。

千字文 The Thousand Character Essay

天は玄く、地は黄。宇宙は洪荒なり。日月は盈昃し、辰宿は列張す。寒さは来り暑さは往き、秋には収めて冬に蔵わう。閏余は歳を成し、律呂は陽を調のう。雲は騰りて雨を致らし、露が結べば霜と為る。金は麗水に生じ、玉は崑岡に出ず。剣を巨闕と号し、珠を夜光と称す。果は李、奈を珍とし、菜は芥と薑を重んず。海は鹹く、河は淡し。竜師と火帝と、鳥官と人皇と。始めて文字を制り、乃ち衣装を服る。位を推し、国を譲る、有虞と陶唐は。 

 

和漢欧混植の文章(二)

和字書体との組み合わせでテストする場合、漢字中心にみるために、漢字が多く現れるような文章を用意する必要がある。欣喜堂では、『読書子に寄す──岩波文庫発刊に際して──』(岩波茂雄)をよく用いている。

 

和漢欧混植の文章(三)

最終的には、その活字書体の制作意図によって、いくつかの文章で見ることも必要なことである。