活字書体をつくる

Blog版『活字書体の仕様書』

漢字・第19回 太さの調整

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書体見本に「鬱」「酬」「鷹」を入れている活字書体の制作プロダクションがある。

漢字には「三」「力」「今」といった画数の少ない字種から、このような画数の多い字種もある。「三」「力」「今」と「鬱」「酬」「鷹」の画線を同じ太さにすると、文字全体の濃度が異なってくる。かといって、濃度だけに注目して画線を細くしてしまうと、別のウエイトの文字になってしまう。

そこで、同じウエイトに見せながら、濃度を調節しなければならない。その調節のやり方は書体によって異なる。そのために書体見本に「鬱」「酬」「鷹」を入れているのだと思う。「鬱」は全体的に画線が込み入っている文字である。「酬」は豎画が並ぶ文字、「鷹」は横画が並ぶ文字として選ばれたのだろう。

画数の少ない「三」「力」「今」、「鬱」「酬」「鷹」をどうデザインするかをまず考えるということだ。とりわけ太いウエイトの呉竹体では、これが書体の完成度を決める重要なポイントとなる。

「酬」にせよ「鷹」にせよ、すべての画線の太さを同じにすると細くなってしまう。主たる画線の太さを保っておいて、従たる画線を細くすることによって、濃度を合わせながら、同じウエイトになるようにするのである。「酬」や「鷹」は極端な例なので、「剛」や「書」のような画数で調整する方が分かりやすいと思う。

主たる画線とは何か。それが問題だ。レタリングの錯視調整と言うよりも、書字の基本的なことになるのだろう。具体的には、

①一番長い線

②内側よりも外側にある線

③左より右、上より下の線

これが主たる画線となることが多い。

本文と同じサイズでの使用を想定している超極太書体の場合には、最狭間隔のコントロールがさらに重要となる。そのサイズで線間が潰れてしまわないように、テストしたうえで最狭間隔の数値を設定し、実際の制作にあたっては計測しながら調整していく。四角、三角になる小さな空間は要注意である。一方で、大きいサイズでの使用もあり得るので、不自然に見える画線の太さの差を作ることは避けたい。